宮廷料理の格調は、豪奢さだけで生まれるものではありません。
日々の身体を支える滋養が、静かに美しく整っていること。
その確かさが、食後の余韻に残ります。
マシャールにはインド人ベジタリアンのお客さまも多く、ダール(豆料理)や野菜料理の味わいの深さも、静かにご好評をいただいています。
今回は豆と青菜の世界へご招待すべく、三皿それぞれの持ち味を丁寧にご紹介します。
豆は素朴であるがゆえに、誤魔化しが効きません。
青菜もまた、火と塩のわずかな揺らぎで表情を変える。
だからこそ、手元の精度が、そのまま皿の品格になります。
香りを解き放つタルカーという儀式
マシャールのこだわりの要となるのがタルカーです。
小さな鍋に油を張り、熱が「ちょうど」に達した瞬間、クミンやマスタードシード、唐辛子が入ります。
短い音。立ちのぼる香りは油へ移り、湯気の上へほどけていく。
タルカーは単なる工程ではなく、香りを目覚めさせる所作です。
香りを「強くする」ためではなく、香りを「整える」ために行う。
豆の甘みを消さず、青菜の青さを荒らさず、乳のコクを重たくしない。
その均衡を守るため、儀式のように慎重であるべきだと考えています。
ダールタルカーは、ビリヤーニーの隣に置いたときにも美しく寄り添います。
さっぱりとしたクミンの香りが米の余韻を引き立て、口の輪郭を整える。
滋養のある豆のスープとして、食事の合間にすくい、飲むように味わうのも一興です。
三皿それぞれの滋養
ダールタルカー(1,200円)
赤レンズ豆のやわらかなとろみを土台に、タルカーで香りの輪郭を描きます。
豆の甘みが先に来て、あとから香りが追いかける。
食べ進めるほど、内側が温かく整っていく感覚があります。
軽いのに、満ちる。
滋養の基礎を丁寧に仕立てた一皿です。
チャナマサーラー(1,400円)
ひよこ豆のほくりとしたコクを、重たくせずにまとめ上げます。
噛むほどに香ばしさが広がり、最後はすっと引く。
濃厚で終わらせず、余韻を澄ませる。
平日の夜に欲しい「満ちるのに軽い」を、別の角度から支える一皿です。
全粒粉のタンドーリーローティーと合わせると、ひよこ豆の香ばしさがいっそう澄みます。
パーラクパニール(1,700円)
ほうれん草の青さは、強さに振れれば荒くなり、弱さに寄ればぼやけてしまう。
そこへ自家製チーズの乳の香りを重ねるときも、濃さで押せば重たさが残る。
だからこそ、誤魔化しが効きません。
マシャールのパニール(無発酵チーズ)は、中沢乳業のミルクを用い、レモンや酢で乳の旨みをそっと寄せて固める手作り品。
しっとりとした質感と、ミルクの甘みを、ほうれん草の青さの奥でじっくり味わってみてください。
柔らかなコクは、青菜を覆い隠すためではなく、余韻を整えるためにある。
静かに贅沢で、胃に重くない。その矛盾を成立させた一皿です。
こんな夜に
- 外食は好きだが、翌日に疲れを残したくない
- 肉を少し休ませ、身体の内側から整えたい
- 仕事終わりに、香りで呼吸を深くしたい
平日の夜は、知らないうちに呼吸が浅くなります。
香りの立ち上がりに身を委ね、胃にもたれない滋養で身体の芯を整える。
派手な刺激ではなく、静かな充足のために。
シンプルだからこそ、誤魔化しが効かない
豆と青菜の宮廷料理を、今宵ご用意しております。
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