有名インド人シェフによる「本格ビリヤニ」の作り方を解説!

スパイスの香りをまとった、贅沢な一皿のごはん。
インド料理といえばカレーやナーンを思い浮かべる方も多いが、いま静かに人を惹きつけているのがビリヤニである。

けれど、いざ調べはじめると疑問が次々に湧いてくる。
ビリヤニとは何なのか。言葉の意味は。カレーやピラフと何が違うのか。どんな種類があり、家庭でどう作るのか。そして——本場の味は、どこで食べられるのか。

この記事では、インド宮廷料理マシャールが、ビリヤニの定義から歴史・種類・スパイス、家庭での作り方、そして食べ方までを一つにまとめて解説する。ビリヤニのすべてを、この一皿の物語としてお伝えしたい。

まず結論:ビリヤニとは

別々に調理した肉(や野菜)と、半茹でにしたバースマティーを層に重ね、鍋を密閉して蒸し上げる(ダム)、インド亜大陸生まれのスパイス炊き込み料理。カレーとは異なり、米とソースを別に仕立ててから合わせるのが最大の特徴です。

ビリヤニとは?──スパイス香る「宮廷の炊き込みご飯」

スパイスが香るビリヤニの一皿

ビリヤニとは、インド・パキスタン・バングラデシュなどインド亜大陸で広く食べられている、スパイスの香り高い炊き込みご飯である。パエリア、松茸ごはんと並んで「世界三大炊き込みご飯」と称されることもある、米料理の頂点のひとつだ。

ただし、日本の炊き込みごはんとは仕立てが大きく違う。
米と具材を一緒に炊くのではなく、スパイスで煮含めた肉のソースと、半茹でにしたバースマティーを層に重ね、最後に密閉して蒸し上げる。この「別々に作って、重ねて、蒸す」という手間こそが、ビリヤニをただの混ぜごはんと隔てる境界線である。

バースマティーとは「香りに満ちた米」を意味する長粒米。細くパラリと軽く、加熱で二倍近くに伸びる。この米なしにビリヤニの香りと食感は語れません。炊き方の詳細はバスマティライスとは?炊き方も解説で。

ビリヤニの歴史と語源──ムガル宮廷から生まれた一皿

「ビリヤニ」という名は、ペルシャ語で「炒める・揚げる」を意味するbiryanに由来するとされる。米料理でありながら、その名が調理の手さばきを指しているのが面白い。
起源には複数の説があるが、有力なのはペルシャの米料理がムガル帝国を通じてインドへ根づいたという流れである。宮廷の厨房で洗練され、王侯貴族をもてなす宮廷料理として発展した。

やがてムガル帝国の衰退とともに、宮廷の技は街へと広がっていく。北インドのラクナウ、南インドのハイデラバードといった土地で、それぞれの気候と食材に合わせて姿を変えながら、結婚式や祝祭を彩る「ハレの日のごちそう」として愛されるようになった。今日では屋台から食堂まで、日常のなかで楽しまれる国民食でもある。

マシャールがお出しするのは、この宮廷料理としてのビリヤニ。インド宮廷料理という都内でも希少な系譜を、大森の一軒で受け継いでいる。

ビリヤニとカレー・ピラフ・パエリアの違い

ビリヤニとライタを添えた食卓

「ビリヤニはカレーの一種?」とよく尋ねられるが、答えはノーである。似て非なる料理との違いを整理しておきたい。

料理 作り方 味わい
ビリヤニ バースマティー 肉ソースと米を別に作り、層にして蒸す スパイスの香りが立つ・部位ごとに味が違う
カレー 白米に添える ソースを煮込み、ごはんにかける ソースと米が一体
ピラフ(プラオ) 長粒米 米を具ごと炒めて出汁で炊く やさしく穏やか
パエリア 短〜中粒米 米を具と一緒に炊き上げる 魚介の出汁が主役

ポイントは、ビリヤニだけが「米とソースを別に仕立ててから合わせる」という点だ。だからこそ、ひと口ごとに白い米の部分とソースの染みた部分が入り混じり、単調にならない奥行きが生まれる。
なお、日本の白米(短粒米)でも作れないことはないが、粘りが出てパラリと仕上がりにくい。本来の香りと食感を求めるなら、やはりバースマティーをおすすめしたい。

ビリヤニの種類

ひと口にビリヤニといっても、その姿は驚くほど多彩である。大きく三つの軸で捉えると分かりやすい。

製法で分ける

パッキ式は、火を通した肉と茹でた米を重ねて蒸す方法。カッチ式は、生のマリネ肉と米を重ね、すべての火入れを一度の蒸しで仕上げる、より難度の高い伝統的な手法である。

地域で分ける

北インドのラクナウ(アワディ)は、宮廷仕込みのまろやかで上品な味わい。南インドのハイデラバードは、スパイスを効かせたカッチ式が名高い。ほかにもカルカッタ、シンディーなど、土地の数だけビリヤニがある。北と南の食文化の違いをもっと知りたい方は、北インドカレーと南インド料理の違いの記事もあわせてどうぞ。

具材で分ける

定番のチキンビリヤニ、コクの深いマトンビリヤニ、そして野菜だけで仕立てるベジタブルビリヤニやエビ・魚のビリヤニまで。マシャールは全料理がハラール、ベジタリアン対応なので、どなたでも安心して楽しめる。

本格ビリヤニの決め手──スパイスと香り、そしてダム

ビリヤニに使うホールスパイスとサフラン

ビリヤニのおいしさを決めるのは、スパイスの重なりと香りの設計である。

骨格をつくるのはカルダモン・クミン・クローブ・シナモンなどのホールスパイス。カルダモンは気品ある清涼感を、クミンは香ばしさを、クローブは甘く濃い刺激を、シナモンはやわらかな甘い香りを添える。ここにガラムマサラやターメリックが加わり、複雑な香りの層をつくる。ホールスパイスは油の中で最初にじっくり熱して香りを移し、パウダー系はマリネや煮込みの段階で加えるのがコツだ。使うスパイスの一つひとつを知りたい方は、カレースパイス30種類の記事が参考になる。

仕上げの香りづけを担うのが、サフランとケウラウォーターである。
サフランは牛乳で溶く作り方も知られるが、マシャールではお湯で煮出したサフラン液(サフランウォーター)を使う。
ケウラは南アジアで愛される芳香水で、ビリヤニに気品ある余韻を添える。インドではスイーツの香りづけにもふんだんに使われる香りで、ボトルのキャップを開けると、インドのお菓子屋さんの店先の風景がふわりと広がる。

マシャールのビリヤニ、三つのこだわり

手作りのフライドオニオン。生の玉ねぎから、新鮮な油で手作りする。市販の揚げ玉ねぎに頼らないことで、香ばしさと軽やかな口当たりが生まれる。
ケウラウォーターとサフラン液の香りづけ。宮廷料理の伝統に沿った、静かで奥行きのある香り。サフランは牛乳で溶かず、お湯で煮出したサフランウォーターにして使います。
ダム(密閉蒸し)製法。生地やアルミで鍋を密閉し、弱火でじっくり。米の一粒までスパイスの湯気を吸わせる、ビリヤニの心臓部です。

その味は、「熱狂!1/365のマニアさん」カレーサミットで、マシャールのダムビリヤーニーが1位に選ばれた一皿にも息づいている。

▼本場のダムビリヤーニーを味わう▼

本格ビリヤニの作り方──シェフの料理教室レシピ(マトンビリヤニ)

鍋の中で層に重ねられたマトンビリヤニ

ここからは、実際の作り方である。
紹介するのは、マシャールのフセインシェフが料理教室でレッスンしたレシピのひとつ。スパイスの配合から米の茹で加減まで、プロが人に教えるときの言葉のまま掲載している。

はじめに:この分量について

料理教室でのレッスン分量のため、マトン2kg・米2kgと大人数向けになっている。ご家庭で作る場合は、全体を同じ比率で減らして調整してほしい。
なお、マシャールが店でお出ししているダムビリヤーニーは、大量の仕込みに合わせた店独自の手順で作っている。ここで紹介するのは、あくまで一般的な本格ビリヤニの作り方である。

準備する材料

  • サラダ油(米油、ひまわり油可) 1カップ強(220g程度)
  • ホールスパイス(炒め用):ビッグカルダモン2個・グリーンカルダモン2個・カシア(西洋シナモン可)7〜8cmのもの1本・インディアンベイリーフ2枚・クローブ15粒
  • GGペースト(おろしにんにく2割、おろし生姜8割にサラダ油を少し加えたもの) 45g程度
  • マトンシャンク(すね肉) 2kg
  • 塩 大さじ2強
  • プレーンヨーグルト 1パック(400g)
  • レモン汁 1/4個分
  • 生姜(千切り)・ミント(ざく切り)・パクチー(みじん切り) 各適量/青唐辛子(みじん切り) 適量(省略可)
  • フライドオニオン 70g程度(生玉ねぎ大2個分)
  • ケウラウォーター 適量
  • 牛乳 250ml
  • バースマティーライス 2kg
  • サフランウォーター 適量

ビリヤニマサラの材料(このうち大さじ5を使用)

  • ホールスパイス:インディアンベイリーフ大2枚・カシア(西洋シナモン可)7〜8cmのもの2本・メース大2枚・ビッグカルダモン(種のみ使用)3個・グリーンカルダモン8個・クローブ12粒・フェンネルシード大さじ2・クミンシード大さじ1強・スターアニス大さじ1・ナツメグ(あれば)1/2個
  • パウダースパイス:レッドチリパウダー13g・カシミーリチリパウダー5g・ターメリック2g

米を茹でるときの材料

  • ビッグカルダモン2個・グリーンカルダモン(割った状態で皮も種も使う)2個・メース大2個・クローブ5粒・カシア(西洋シナモン可)7〜8cmのもの2本
  • サラダ油80ml・レモン汁1/4個分・青唐辛子(斜め切り)1本(省略可)・ケウラウォーター少々・塩大さじ2

下準備

準備1 ビリヤニマサラ作り。ビリヤニマサラ用のホールスパイスを準備し、大きいものはスパイスクラッシャーでつぶしておきます。乾煎りはせず、そのままミルでやや粗挽きに挽きます(細かく挽かないようにしてください)。その後でビリヤニマサラ用のパウダースパイスを加えて混ぜ合わせます(使用する肉によってマサラの配合は異なります)。
準備2 グレービー用ソース作り。ボウルにヨーグルトを入れて泡立て器などでよく撹拌し、大さじ1の塩(分量外)とビリヤニマサラ、レモン汁(分量外・1/4個分)を加えて混ぜ合わせておきます。
準備3 米の浸水。炊く時間を逆算し、4回ほど丁寧に洗ってから30分浸水し、ザルにあげて水を切っておきます。バースマティーライスは米粒がつぶれやすいので洗うのもざっとという人が多いのですが、フセインシェフはため水をして優しく数回洗います。浸水時間は短くて30分、1〜1.5時間がベスト、2時間以上は浸けないでください。

作り方

STEP1
鍋に油とホールスパイスを入れて強火で熱します。カルダモンがふくらんでくるまで軽く炒めながら、油にホールスパイスの精油を抽出します。

STEP2
GGペーストを加えてさっと混ぜ合わせ(肉と一緒に火が入るので軽く混ぜるだけでOKです)、すぐにマトンを加えて炒めます。10分程度、肉から出てくる水分がきっちり飛ぶまで炒め続けます。

STEP3
水(分量外)をひたひたになるまで注ぎ、塩を加えて混ぜ合わせます。強火で10分程度火を通したら、ふたをして弱火で90分程度、マトンが柔らかくなるまで煮ます。

STEP4
ふたを開けてグレービー用ソースを加えて混ぜ合わせ、生姜、ミント、パクチー、青唐辛子、半量のフライドオニオンを加え、ケウラウォーターを振り入れます。牛乳を加えてざっと混ぜ合わせておきます。

STEP5
大きめの鍋に湯を沸かし、米茹で用の材料を加えます。再度沸騰したら、米を加えて茹でます。この段階で6割程度火を通すイメージです
感覚としては、パスタを茹でるのに近いと考えてください。芯が残ったアルデンテの状態で引き上げ、残した芯にはこのあとの蒸しで火を入れます。

STEP6
米が茹で上がる少し前にSTEP4のグレービーの鍋を強火にかけ、グレービーを温めておきます。STEP5で茹でた米をざるにあげて水気を切り、手早くグレービーのうえにかぶせます。残りのフライドオニオン、パクチー、ミント、サフランウォーターなどをちらし、ふたをして弱火で20分ほど炊きます。20分経ったらふたを開けて鍋底の水分をチェックし、よければふたをして30分ほど蒸らして完成です。

失敗しないコツ

米がベチャつく最大の原因は、茹ですぎと火が強すぎることである。6割茹で・弱火のダムを守るだけで、仕上がりは見違える。
とはいえ、密閉と弱火を保ちながら大量の米を均一に蒸し上げるのは、家庭の道具ではやはり難しい。だからこそ、本物を一度知っておくと、家庭の一皿もぐっと近づく。本場のダムを味わうなら、マシャールのダムビリヤーニーコースへ。

ビリヤニの食べ方・楽しみ方

ライタを添えたビリヤニの楽しみ方

インドやパキスタンでは、ビリヤニはそれ一皿で完結する料理である。カレーをかけて食べるものではない。添えるのはライタ(ヨーグルトサラダ)で、これは欠かせない相棒だ。

そしてビリヤニ自体は、実はそれほど塩味を効かせていない。
ライタやアチャール(漬けもの)の塩気と一緒に口へ運んで、ちょうどよく決まるように仕立てられている。「ビリヤニは塩辛い」と感じた経験がある方こそ、ライタと一緒に食べてみてほしい。味の輪郭が変わるはずだ。
食べ方そのものに厳密な決まりはない。インドでは手で食べることも多いが、スプーンでまったく問題ない。

マシャールでのおすすめの食べ方

まずは本場と同じように、ライタをかけて単独で。ビリヤニそのものの香りと、ひと口ごとに変わる味の表情を楽しんでいただきたい。
そのうえで、日本のお客様には途中からカレーをかけて味変を楽しまれる方も多い。本場の作法とは違うが、これはこれで美味しい食べ方なので、お好みでどうぞ。

そのほか、パリッとした豆せんべいのパパドや玉ねぎのアチャール、ゆで卵を添えるのも本場らしい楽しみ方だ。いくつかの副菜を少しずつ合わせることで、一皿のなかに味の変化が生まれ、最後まで飽きずに味わえる。

ビリヤニのよくある質問(FAQ)

Q. ビリヤニの意味・語源は?
ペルシャ語で「炒める・揚げる」を意味するbiryanに由来するとされています。米料理でありながら、名は調理の手さばきを指しているのが面白いところです。

Q. 白米(日本の米)でも作れますか?
作れますが、粘りが出てパラリと仕上がりにくく、香りも弱くなります。本来の食感にはバースマティーがおすすめです。

Q. バースマティー(バスマティライス)がないときの代替は?
ジャスミンライスなどの長粒米が比較的近い仕上がりになります。短粒米しかない場合は水分を控えめに炊いてください。

Q. 炊飯器やフライパンでも作れますか?
どちらも可能です。炊飯器は失敗が少なく手軽、フライパンは手早く作れます。ただし密閉と弱火が要のダムの一体感は、専用の鍋にやや劣ります。

Q. ビリヤニがまずくなる(ベチャつく)原因は?
米の茹ですぎ、火が強すぎる、水分が多すぎるの三つがほとんどです。茹での段階では6割ほどの火通しにとどめ、残りは弱火のダムで火を入れる。これを守れば安定します。

Q. カロリーはどれくらい?
実は一概には言えません。使う油の量、フライドオニオンの量、具材によって仕上がりが大きく変わるためです。一般には、チキンビリヤニ1人前でおよそ500〜700kcalとされることが多いようですが、あくまで幅のある目安とお考えください。油とごはんを使うため軽い料理ではないので、ライタや野菜を添え、量を調整して楽しむのがおすすめです。

Q. 保存と温め直しは?
冷蔵で2〜3日が目安。温め直しは少量の水をふって蓋をし、蒸すように温めるとパサつきません。

Q. ベジタリアンやハラールに対応していますか?
マシャールは全料理がハラール、ベジタリアン対応です。野菜で仕立てるベジタブルビリヤニもご用意しています。

本場の味を、大森で──マシャールのダムビリヤーニー

ここまで読んで、「一度、本物を味わってみたい」と思っていただけたなら幸いである。

マシャールのビリヤニは、宮廷料理の系譜を受け継ぐダム製法の一皿。手作りのフライドオニオン、ケウラウォーターの香り、そしてバースマティーの一粒までスパイスをまとわせた、都内でも希少なインド宮廷料理のビリヤニです。印度カリー子さんにもご来店いただいた、その味を、ぜひ大森の店でお確かめください。

じっくり味わうなら、ビリヤニを主役にしたダムビリヤーニーコース(5,950円)がおすすめ。おひとりさまからご利用いただけます(ご予約をおすすめしています)。まずは気軽に、という方はランチのビリヤーニープレートやお席のご予約から。

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お席のご予約 | 店舗アクセス(大森)

まとめ

ビリヤニとは、肉ソースとバースマティーを別に仕立て、層にして蒸し上げるインドの宮廷炊き込み料理である。カレーでもピラフでもない、香りと食感の物語がそこにある。

家庭でも、米を6割に茹でて弱火のダムで仕上げる——その勘どころを守れば、一端には手が届く。そして——本場の一皿を知りたくなったら、大森のマシャールへ。スパイスの湯気の向こうに、宮廷の食卓が待っている。